加齢黄斑変性や糖尿病性網膜症など、網膜内の新生血管の発生や毛細血管から血液成分が漏れ出すことが原因の疾患があります。また体内にはこれら新生血管の成長を活発化させたり、毛細血管から血液成分が漏れ出すのを即すVEGF(血管内皮細胞増殖因子)という物質があります。
抗VEGF抗体療法とは、このVEGFの働きを抑える抗VEGF抗体の薬剤を眼内に注射することによって新生血管の増殖や成長、血管成分の漏れを抑制する治療法です。
抗VEGF薬の適応症
- 滲出型加齢黄斑変性
- 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
- 病的近視における脈絡膜新生血管
- 糖尿病黄斑浮腫
現在のところ、以上4つの疾患が抗VEGF薬の適応症として承認されています。
1.加齢黄斑変性
加齢黄斑変性は、加齢により網膜の中心である黄斑部におこる、慢性的、進行性の疾患で視力低下や変視症(ゆがんで見える)をきたし、進行すると失明の危険性もあります。
この加齢黄斑変性は萎縮型と滲出型に分けられますが、滲出型は脈絡膜新生血管という異常血管の増殖によって起こると考えられています。特に中心窩(黄斑の中心部)に脈絡膜新生血管ができると著しく視力が低下します。
この脈絡膜新生血管の増殖には血管内皮細胞増殖因子(VEGF)という物質が関与していて、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が異常血管の新生を誘導します。
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の働きを抑制すると、脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性において、新生血管の増殖を抑え、視力低下を軽減する効果があることがわかっています。
2.網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
網膜静脈閉塞症は、年を重ねると発症しやすい病気で、高血圧や動脈硬化と深い関連があります。
網膜静脈閉塞症の患者さんの多くは、高血圧のある方です。これは高血圧により血管がダメージを受けること、つまり動脈硬化が影響しています。ほかにも血管自体の炎症により発症したり、緑内障のある方も発症しやすいと言われています。
網膜の動脈と静脈の神経内で並行している部分および網膜内で交叉している部分は血管の膜を共有し接しています。この部分で動脈硬化が起こると、動脈が静脈を圧迫して静脈内の血管が滞ります。そうすると血液が凝固し血栓ができて静脈が閉塞します。
網膜中心静脈閉塞症は、眼球の後方にある網膜中心静脈という血管が詰まって発症し、網膜静脈分枝閉塞症は、静脈が網膜内で枝分かれしている部分(枝の部分)が詰まって発症します。
症状は、視力低下、物がゆがんで見える、急な目のかすみ、視野が欠ける、出血したところが黒っぽく見えるなど自覚症状は無症状から重い視力障害まで様々です。
3.病的近視における脈絡膜新生血管
強い近視の人には眼軸長(眼球の奥行)が長い人が多いのですが、眼軸長が長くなると網膜・脈絡膜が薄くなり、網膜の断絶した箇所を修復しようとして脈絡膜新生血管という異常血管が増殖します。脈絡膜新生血管が起こると、新生血管からの出血や、漏れ出た血液成分(滲出液)があるため視力低下や変視症(ゆがんで見える)の原因となり、進行すると失明の危険性もあります。
4.糖尿病黄斑浮腫
糖尿病により血糖が高い状態が続くと網膜の血管がいたみ、血管から血液成分が漏れたり網膜の循環状態が悪くなったりします。そのため黄斑浮腫(むくみ)や眼底出血がおこり、重症になると新生血管が発生し、硝子体出血(眼球内部の出血)、網膜剥離、緑内障を発症し失明することがある病気です。
糖尿病網膜症は、単純網膜症→増殖前網膜症→増殖網膜症と進行します。
(黄斑浮腫はいずれの病期においても合併することがあります。)